多様な性と、孤独・セックスレス ― 「ふつう」はひとつではない
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だれを好きになるか、自分をどんな性だと感じるか、性的なことをどのくらい望むか。こうしたことは、人によって本当にさまざまです。この回では、まず性のあり方がいろいろあることを確かめます。そのうえで、日本でよく話題になる、ふたりの間で性的なふれあいがなくなること(セックスレス)と孤独について、調査の数字をもとに考えます。どのあり方にも良い・悪いはありません。「したくない」という選び方も大切にされるべきだ、というのが編集部の考えです。
SOGI ― すべての人に関わる言葉
SOGI(ソジ)は、どんな性別の人を好きになるか(性的指向、Sexual Orientation)と、自分の性別をどう感じているか(性自認、Gender Identity)の頭文字をとった言葉です。性の多様なあり方を持つ人たち(LGBTQ+)のような、特定の人たちだけを指す言葉ではありません。異性を好きになる人(異性愛の人)も含めて、すべての人が持っている性のあり方を表します。
2023年に実際に使われ始めた(施行された)法律「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」では、言葉の意味が決められています。性的指向は「恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向」、ジェンダーアイデンティティは「自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識」とされています(内閣府, 2023)。
どのくらいの人が、どんなあり方なのか
割合を調べた調査はいくつかあります。ただ、調べ方によって数字が大きく変わります。
国立社会保障・人口問題研究所の研究者らは、2019年に大阪市で調査を行いました。住民の中からくじ引きのように偏りなく選んだ(無作為に選んだ)18〜59歳の人に、郵送でたずねたものです(答えが有効だった人は4,285人)。結果は、ゲイ・レズビアン・同性愛者が0.7%、バイセクシュアル・両性愛者が1.4%でした。だれに対しても性愛の気持ちを持たない「アセクシュアル・無性愛者」は0.8%でした。生まれたときの性別と自分で感じる性別がちがう人(トランスジェンダー)も含めると、合計は3.3%でした。「決めたくない・決めていない」と答えた人も含めると8.2%になります(釜野ら, 2019)。
一方、電通グループが2023年に20〜59歳の57,500人に行ったインターネット調査では、LGBTQ+にあてはまる人は9.7%でした(電通グループ, 2023)。インターネットで答えてもらうか、偏りなく選んだ人に郵送でたずねるか。また、どんな聞き方をするか。それによって結果は変わります。どちらが正しいかを決めるより、「思っているより身近に、さまざまな人がいる」と受け止めるのがよいでしょう。
アセクシュアル ― したくない自由
アセクシュアル(無性愛)は、ほかの人に性的な魅力を感じない、または感じることが少ないあり方です。英国で1万8千人以上に行った全国調査では、約1%が「どの性別の相手にも性的に惹かれたことがない」と答えました(Bogaert, 2004)。
性的なことへの関心が薄いのは、病気でも、心や体が育っていないせいでもありません。恋愛の気持ちはあるけれど性的な行為は望まない人、どちらも望まない人など、あり方もさまざまです。「そのうちしたくなる」「経験すれば変わる」と押しつけるのは、相手の気持ちを大切にしていないことになります。
どんな性別の人を好きになるかや、自分の性別をどう感じているかは、本人が話したいと思ったときに、話したい相手にだけ伝えるものです。本人の許しなくほかの人に伝えること(アウティング)は、その人の権利を深く傷つけること(人権侵害)になりえます。
セックスレスの実態
日本性科学会は、セックスレスの意味をこう決めています(定義)。「特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交やセクシャル・コンタクトがいずれも1ヶ月以上なく、その後も長期に渡ることが予想される場合」です(日本性科学会, 2024)。
日本家族計画協会は、2020年2月に20〜69歳の5,029人にインターネット調査を行いました。この1年間に一度も性交がなかった人は、男性の41.1%、女性の49.5%でした。結婚している20〜49歳に限ると、セックスレスにあたる人は51.9%でした。同じ協会の以前の調査とくらべると、増えている様子が見てとれます(日本家族計画協会, 2020)。
ただ、編集部が強く伝えたいのは、セックスレスそのものが「問題」とは限らない、ということです。ふたりとも納得していて、ほかの形で愛情や親しさを伝え合えているなら、それもひとつの関係のあり方です。困るのは、どちらかが寂しさや、拒まれたような気持ちを抱えているときです。話し合えないまま、すれ違いが続くときも同じです。
孤独と性
内閣府は2024年12月に、全国の16歳以上2万人を対象に調査を行いました。孤独を感じることが「しばしばある・常にある」人は4.3%、「時々ある」が15.4%、「たまにある」が19.6%でした。合わせると約4割の人が孤独を感じていました。「しばしばある・常にある」の割合がいちばん高かったのは20〜29歳で、7.4%でした(内閣府孤独・孤立対策推進室, 令和6年調査)。
性的な関係があることと、孤独でないことは同じではありません。パートナーがいても孤独を感じることはありますし、一人でいても満たされている人もいます。ただ、ふれあいや親しい会話が減ると、心の支えが細くなることはあります。一人の時間を大切にしながら、友人や家族、地域など、性に限らないつながりを持つことも、心の健康を支えます。
話し合いのための工夫
- ベッドの上や気まずいタイミングを避けて、落ち着いた時間に話す
- 「あなたはいつも」ではなく「私はこう感じている」と、自分の気持ちを主語にする
- 性的な行為の回数より、手をつなぐ、ハグするなど、ふれあい全体を話題にする
- 疲れ、体調、子育てや仕事の負担など、背景にある事情も一緒に見る
- 相手の「したくない」を責めず、自分の「したい」も否定しない
話し合いは、相手に性的な行為を受け入れさせるためのものではありません。夫婦や恋人の間でも、同意のない性交は、それを罰する罪(不同意性交等罪)になりえます。このことは、2023年に刑法が改められて、はっきり示されました(第2回参照)。
カップルカウンセリングという選択肢
ふたりだけで話すと、どうしてもこじれてしまうこともあります。そんなときは、専門家の力を借りる方法があります。英語で発表された58件の研究、約2,000組のカップルをまとめた分析があります。それによると、専門家のもとでふたり一緒に受ける心のケア(カップルセラピー)を受けた人たちは、関係への満足度が大きく良くなり、その効果はおおむね続いていました(Roddy ら, 2020)。ただし、調べた人の多くは米国などの男女のカップルです。日本の状況にそのまま当てはまるとは限りません。
日本では、日本性科学会が認めた「セックス・セラピスト」「セックス・カウンセラー」の一覧が公開されています。セックスレスや、性の働き(性機能)の悩みなどを相談できる病院や相談室を探せます(日本性科学会)。
日本性科学会 セックスカウンセラー・セラピスト一覧:https://sexology.jp/counselors_list/(相談できる内容と予約のしかたが載っています)
よりそいホットライン:📞 0120-279-338(24時間、通話料無料)。音声案内で「4」を選ぶと、好きになる性別や自分の性別の感じ方(性的指向や性自認)に関する悩みの専門ラインにつながります。福島県からは📞 0120-279-226。
参考にした資料
- 内閣府(2023)性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(概要)
- 釜野さおりら(2019)「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」結果速報(国立社会保障・人口問題研究所 内 研究チーム)
- 電通グループ(2023)「LGBTQ+調査2023」を実施
- Bogaert AF(2004)Asexuality: prevalence and associated factors in a national probability sample. Journal of Sex Research
- 日本性科学会(2024更新)セックスレスについて(セックスレス・カップルの定義)
- 日本家族計画協会 家族計画研究センター(2020)第4回【ジェクス】ジャパン・セックス・サーベイ2020 調査結果の概要
- 内閣府孤独・孤立対策推進室(令和6年調査)孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)調査結果のポイント
- Roddy MK ら(2020)Meta-analysis of couple therapy: Effects across outcomes, designs, timeframes, and other moderators. Journal of Consulting and Clinical Psychology
- 日本性科学会:セックスカウンセラー・セラピスト一覧
- 社会的包摂サポートセンター:よりそいホットライン(性的指向・性自認に関する相談)